オスマン・トルコによる アルメニア人大量虐殺 (1915〜1917年)を否認した者への刑罰(5年以下の自由刑または罰金刑)を可能にするため、フランス社会党は国会に法案を提出していたが、トルコの抗議にもかかわらず(詳しくは
こちら)、フランス下院は予定通り2006年10月12日に審議し、投票数の圧倒的多数を得て可決された。賛成票は106、反対票は19であった。なお、与党UMP
(保守)所属議員の多くは棄権している(参照)。
現時点で新法はまだ成立しておらず、その発効には上院と大統領の承認が必要となるが(参照)、下院が法案を可決した翌13日、トルコの Erdogan 首相 は(経済)制裁の発動を実際に検討すると述べている(参照)。また、2006年ノーベル文学賞の受賞者である Orhan Pamuk 氏を初めとるする、ヨーロッパの思想に同化したトルコ国内の知識人も、表現の自由を制約するものとして批判しているとされる(参照)。
下院の採決後、法案は上院に送られているが、実際に審議されるかどうかは、フランス政府によって決定される。なお、トルコとの外交関係やEU加盟交渉の悪化を懸念し、フランス政府は刑罰導入に消極的であるとされる(参照)。他方、法案を提出した社会党(野党)議員の中にも、刑罰の導入は表現の自由を制約するとして、反対する者がいるとされる(参照)。なお、トルコでは、逆に、大量虐殺の存在を認めると罰せられる可能性がある(詳しくは こちら)。
トルコとの関係悪化を懸念する欧州委員会は、フランス国会の動きを批判している。また、第3国であるフランスの介入は、トルコとアルメニア両国の和解にも悪い影響を及ぼしかねないと危惧されている(参照) 。アルメニア問題の解決はトルコがEUに加盟しうるための要件には当たらないが(詳しくは こちら)、トルコとEU加盟国の価値・歴史観の相違を明確に示す一例として注目される。なお、トルコは、歴史問題を審議させるために委員会を発足し、その見解に従う姿勢もみせている。いずれにせよ、歴史問題の解決は容易ではないと解される(参照)。
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