その他にも、明瞭な委託があれば、任務を遂行しうる。
なお、EU基本権庁は、個人の権利救済に関与しえない。つまり、個人は基本権侵害を理由に新機関に申し立てることはできない。このような申し立ては、従来どおり、欧州人権裁判所に提起されることになる。なお、同裁判所との協力関係を緊密にするため、ECは欧州評議会(欧州人権裁判所は同評議会制度の枠内で設けられている)と協定を締結するものとされている。また、基本権庁の執行部(Executive
Board)の会議には、欧州評議会の代表も出席することが想定されている(理事会規則第9条)。
基本権庁は、加盟国や加盟候補国による基本権侵害の有無について審査しえず、EUの諸政策が基本権に及ぼす影響について調査・分析したり、実効的な保護方法を示しうるに過ぎない。つまり、EUや加盟国との関係において、基本権庁の第1義的な役割は、それらを助言ないし支援することである(設立規則第2条参照)。なお、調査・分析の対象となる基本権は制限されない。
EU(EC)の立法手続への関与については、理事会内で最後まで争われていたが、諸機関の要請がある場合に限り、基本権庁は見解を述べることができる。ただし、諸機関の行為の適法性や加盟国によるEC法違反の有無について審査することはできない(理事会規則第4条第2項)。
基本権庁の活動は、いわゆるEUの第1の柱の分野に限定される。つまり、第2 および第3 の柱は対象外である(EUの3本柱構造については こちら)。なお、EUや加盟国による権利侵害は、第3の柱 の分野(例えば、テロ対策)において生じる可能性が高いが、ドイツやイギリスなどの反対により(警察・司法権は国家の伝統的な主権の一つであるとされる)、基本権庁の活動範囲より除外されている。そうであるならば、新しい専門機関を設ける必要はないとして、欧州議会やNGOによって厳しく批判されているが、このような批判を踏まえ、基本権庁の活動分野は2009年末までに見直されることになっている。
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