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WTO諸協定の性質および構造 〜 相互性の原則


 Portugal v. Coucil 判決 において、EC裁判所は、WTO加盟国の裁量権について述べた後、以下のように判示している(Case C-149/96, Portugal v. Council [1999] ECR I-8395, paras. 42-45

42. As regards, more particularly, the application of the WTO agreements in the Community legal order, it must be noted that, according to its preamble, the agreement establishing the WTO, including the annexes, is still founded, like GATT 1947, on the principle of negotiations with a view to “entering into reciprocal and mutually advantageous arrangements” and is thus distinguished, from the viewpoint of the Community, from the agreements concluded between the Community and non-member countries which introduce a certain asymmetry of obligations, or create special relations of integration with the Community, such as the agreement which the Court was required to interpret in Kupferberg.

43. It is common ground, moreover, that some of the contracting parties, which are among the most important commercial partners of the Community, have concluded from the subject-matter and purpose of the WTO agreements that they are not among the rules applicable by their judicial organs when reviewing the legality of their rules of domestic law.

44.  Admittedly, the fact that the courts of one of the parties consider that some of the provisions of the agreement concluded by the Community are of direct application whereas the courts of the other party do not recognise such direct application is not in itself such as to constitute a lack of reciprocity in the implementation of the agreement (Kupferberg, paragraph 18).

45. However, the lack of reciprocity in that regard on the part of the Community’s trading partners, in relation to the WTO agreements which are based on “reciprocal and mutually advantageous arrangements” and which must ipso facto be distinguished from agreements concluded by the Community, referred to in paragraph 42 of the present judgment, may lead to disuniform application of the WTO rules.


 この判決文より多くのことが読み取れる。まず第1に、他の加盟国(ECにとって最も重要な貿易パートナー)では、WTO諸協定の裁判規範性(法令審査の基準)が否認されるが、それゆえにECでも否認される必然性はないことが導かれる。実際に、ある加盟国が条約義務(DSBの勧告の実施義務を含む)を誠実に履行するとすれば、その国において司法審査は不要であるし、他方、ECでは司法審査を認めても差し支えない。重要なのは、この裁判所による審査の相互性ではなく、条約義務の履行の相互性である。EC裁判所が指摘しているように、WTO法の履行は相互性の原則に依拠しているため、条約違反国に対しては、条約義務の履行を拒みうる。このような場合であれ、司法機関による条約規定の執行を認めると、条約の履行に関し、アンバランス(disuniform/déséquilibre/Ungleichgewicht)が生ずるとEC裁判所は判示している。加盟国の裁量権ないし交渉権限(参照)の観点から、この判旨は首肯しうるが、もっとも、司法機関は実務を考慮に入れた上で判断することができ、相手国が条約義務を誠実に履行していない場合には、ECの政策決定機関に条約義務の履行を強制しなくともよいと解される。なお、WTO法違反ゆえに、ある措置が当然に無効になるわけではない。また、EC裁判所は、ECの政策決定機関にある特定の行為を命じうるわけではない。それゆえ、EC裁判所が法令審査を行うとしても、条約の履行に関して、著しいアンバランスが生じたり、ECの政治・立法機関の裁量権が著しく制限されるとは限らないであろう。ところで、国際舞台におけるECの強大な影響力、すなわち、欧州共同体は、貿易パートナーに強い圧力を加えることができるだけではなく、外圧をはねのける力を持ちあわせていることが指摘されている。そうであるとすれば、ECと他のWTO加盟国の交渉権限のバランス関係を強調して、直接的効力を否定する立場は説得力に欠ける。

 ところで、文献上、EC裁判所がWTO法の直接的効力を否認する主たる、ないし真の理由は、WTO法が相互性の原則に基づいていることにあるとする見解も主張されているが、これが副次的な根拠であることは、引用した判決文より明らかであろう。



New 事後のケースでは、EC裁判所が相互性の有無を基準に判断するのは説得力に欠けるとする主張がなされている。これは、すべての国際協定は相互性を基礎にしているとの理由に基づいているが、この見解はEC裁判所の判例の基本事項を読み誤っているとEC裁判所は述べている。その上で、WTO諸協定に反するEC法の適用を排除すれば、ECの立法・行政機関より交渉権を奪うことになるとし、WTO諸協定に基づく法令審査の許容性を改めて否認している(参照)。




 また、この点については、相互性の原則は、裁判規範性や直接的効力の有無に関し決定的な判断基準にはなりえないことも指摘すべきであろう。特に、条約義務を誠実に履行している加盟国との関係において、同原則は、司法審査を拒む理由にはなりえない。 

 次に、EC裁判所は、直接的効力が認められる国際条約と、WTO諸協定の相違点について触れ、前者は、@条約義務にある程度の不均衡が存したり、またはA特別な統合関係の構築を目的としていると述べている。従来、この点は必ずしも明確に指摘されておらず、新判例は示唆に富むが、不明瞭な点も存する。例えば、第1の基準(@)の内容は必ずしも明らかではない。それが、直接的効力を有する条約は、ある特定の加盟国(具体的にはEC)にのみ義務を課しており、また、その遵守は、他の加盟国によるその他の条約義務の履行に左右されないこと、要するに、相互性の欠缺を指すとすれば、同条約は(相互性の原則に基づく、通常の国際関係の形成ではなく)特別な統合関係の構築を目的としていると言え、第2の基準が満たされる。それゆえ、両基準は密接に関連しており、条約規定の直接的効力について検討する際、相互性の原則は、条約の趣旨・目的を反映する要素として考慮することもできよう。もっとも、同原則は、条約規定の直接的効力を判断するための決定的な基準にはなりえないと解される(前述参照)。また、緊密な統合関係の創設を目的として締結された条約であれ、その履行方法に関し加盟国に裁量権が与えられている場合には、直接的効力は認められない。それゆえ、第2の基準も決定的な要因にはなりえない。




Webページ作成の便宜上、脚注はすべて削除してあります。詳しくは、拙稿「ECにおけるWTO法の効力に関する再考」平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第9巻第2号(2005年3月)181頁以下をご参照ください。


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