これに対し、Blair 首相は、中傷や個人的攻撃はやめ、オープンに議論すべきであると述べて、演説を開始している。
Blair 首相の演説の要旨は以下の通りである。
イギリスは政治統合に消極的とする批判について
2005年上半期の議長国であるルクセンブルクの Juncker 首相 より、単に経済統合のみを望む加盟国があるとして、暗に批判された Blair 首相は、自らは熱狂的な親欧派であることを強調したうえで、ヨーロッパは単に経済マーケットであるとする見方は受け入れられないと述べた。
EU次期財政計画やイギリス優遇策について
6月17日の 欧州理事会 で EUの次期財政計画 がまとまらなかったのは、イギリスやオランダが無理難題を突きつけたからとする批判(詳しくは こちら)について、Blair 首相は、私は自国の 優遇策 の凍結に譲歩しなかったとする指摘があるが、これは誤りであると述べている。また、自らは優遇策の見直しについて検討する用意のある唯一のイギリス出身政治家であるとも語っている(参照)。
また、Blair 首相は、17日の会議の終了間際に 農業政策 改革を持ち出し、合意の成立を妨げたとする指摘については、一晩で農業政策改革を実現しようと考えているわけではないと反論している。
仏蘭で欧州憲法条約の批准が否決されたことについて
フランス と オランダ の国民投票で、欧州憲法条約 の批准が否決されたのは、同条約の内容ではなく、現在のEUの状態に不満を抱いている市民が多かったためと Blair首相は捉えている。
憲法条約はEUを市民により身近な存在にすることを目標にしている。また、リスボン戦略 は、2010年までにEUを世界中で最も競争力のある地域に発展させるという野心的な目標を掲げている。しかし、これらの目標は達成されていない。
これらの点を指摘した上で、Blair 首相は、今こそ、我々、政治指導者は、現実に目を向け、また、市民の声に耳を傾け、EUを改革する必要があると述べている。特に、財政制度を刷新し、経済成長に貢献するように改革しなければならないとしている。
社会モデルの改革について
EU改革の方法として、Blair 首相は、まず、社会モデルの現代化 (modernisation) を挙げている。自由化路線を推進する Blair
首相は、ヨーロッパ型社会モデル の崩壊を試みているとの批判に対し、首相は、@ 2000万人の失業者を生み、A 生産性の面で米国に劣る現在の社会モデルとは、いったい何なのかと切り返している。
また、イギリスは、極端な市場自由化路線を実施し、労働者の利益を顧みていないとする批判に対しても、@ EU内で最も大規模な失業対策を実施し、長期的失業者数を削減していること、A
他の加盟国よりも、公共サービスの拡充に力を入れていること、また、B 最低賃金を定めていること(イギリスでは、Blair 政権下で初めて導入された)などを挙げている。
EUのさらなる拡大について
欧州憲法条約の批准に関する国民投票で、EU拡大懐疑論が台頭したことを受け、EUや加盟国のリーダーの中には、手続は慎重に進めるべきと主張する者も増えているが(詳しくは
こちら)、EUは
トルコ や クロアチア の期待に応える義務を負っていると Blair 首相は述べている。また、雇用拡大や経済発展の観点からも、EU拡大を推進しなければならないとしている。
欧州議会の反応
Blair 首相の演説に対し、欧州議会で最大勢力を誇る保守系政党会派の Hans-Jörg Pöttering 会派長は、EUの将来について活発な議論を交わすことは、「民主主義の勝利」であるとして歓迎しているが、他方、イギリスが推進するEU拡大については、あらゆる国を迎え入れることは、ヨーロッパのアイデンティを失わせると批判している。
他方、社会党会派の Martin
Schulz 会派長は、EU改革をツール・ド・フランスに例えた上で、まもなく険しい山道にさしかかるため、先導することは容易ではないと述べている。また、制度改革には賛成するものの、ヨーロッパ型社会モデル
を過去の遺産として美術館に収める時期はまだ到来していないと語っている。
自然環境保護政党会派の Daniel Cohn-Bendit 会派長は、Blair 首相の目指すEU改革は失敗に終わるだろうと述べるとともに、EUは、独仏や、イギリスのモデルでは機能せず、これらを調整することが必要であるとしている。また、目標を達成するためには、イギリスの首相としてではなく、理事会の議長として行動しなければならないとして訴えている(参照)。
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